vol.13
卵巣・子宮の病気(犬編)

避妊手術を受けていない、あるいは妊娠したことがない犬が年をとると、
かかりやすい「婦犬科」の病気がある。

その代表例が、子宮内でひどい細菌感染がおこり、化膿する「子宮蓄膿症」である。

命をはぐくむ「母体」のメカニズム
 性成熟した雌犬の卵巣では、脳下垂体から分泌されたホルモンの指令で卵胞ホルモンがさかんに分泌され、卵胞のなかで「卵」が成長。成熟すると、卵胞から卵が旅立っていく(「排卵」という)。ついでにいえば、この「排卵」がおこる時期を「発情期」という。
 ふつう、雌犬は7ヶ月周期で「排卵」(つまり発情)をくり返す。この発情期に受精しなかった場合、妊娠準備をととのえた子宮内膜に細菌感染・繁殖の「隙」ができるのである。
性周期のはざまに芽吹く「子宮蓄膿症」
 中高齢期の雌犬にとりわけ多いのが「子宮蓄膿症」である。これは子宮内に侵入した大腸菌などの雑菌によってひきおこされる病気だ。ふだん、子宮内は体の免疫のおかげで、無菌状態にある。
 ところが、雌犬の性周期のなかで、卵巣の卵胞から成熟した「卵」が「排卵」されると、子宮内膜では、受精卵を着床させるために、細胞分裂がさかんになって内膜が分厚くなり、受精卵の栄養となる「液」をたくさん分泌するための「子宮腺」が増えていく。この時期、子宮内は、精子とむすびついた受精卵を守るために、免疫機能がいくらか弱くなる。そのとき、子宮内に侵入した細菌がいれば、受精卵の代わりに、免疫力が弱く、さらに栄養分に富んだ子宮内膜にもぐりこみ、繁殖をはじめる。そうなれば、子宮の内膜が炎症をおこし、さらに化膿がひどくなり、膿がたまってく(子宮蓄膿症)。この時期、子宮の入り口は、本来なら、内部に入る精子をとどめ、受精卵の着床を助けるために、閉じられている。そのため、細菌と膿を体外に排泄できず、子宮内での炎症・化膿がさらにひどくなるのである。
 もちろん、雌犬が若く元気で体力もあり、免疫力も強く、ホルモンバランスもよければ、たとえ受精しなくても、すぐに子宮蓄膿症になるわけではない。
 なにかの機会に膣から子宮に侵入し、子宮内で身をひそめていた大腸菌などの細菌の働きが活発化する場合がある。大腸菌などが出すたくさんの毒素が体内にまわって、腹膜炎や腎炎、肺水腫、さらに腎不全など多臓器不全で一命を落としかねないのである。
「子宮蓄膿症」の症状と治療
 
子宮蓄膿症になれば、体内に毒素がまわらないうちに、できるだけ早く外科手術で子宮と卵巣を摘出するのがもっとも確かな治療法である。
 毒素が体内にまわりだすと、食欲不振や下痢になりやすい。化膿がひどくなると、発熱をともない、水をがぶ飲みすることも多い。さらに膿がたまると、下腹部がふくれてくる。
 一般的に、お産の経験がなく、また生理不順などホルモンバランスのよくない雌犬が歳をとると、子宮蓄膿症になりやすい。
 そのほか、卵巣・子宮の病気では、たまに腫瘍になるケースもある。もっとも、雌犬の卵巣腫瘍では、悪性腫瘍、つまりがん化するものはそれほど多くない。おかしいと感じたら、念のため、検査を受けたほうがいいだろう。