この時期の食事療法は低タンパク質 |
尿素の元はタンパク質です。タンパク質は骨格以外の体の大部分を構成するいわば体を作る材料と言えます。しかし、元来肉食のネコはそのタンパク質をエネルギー源としても利用しています。その結果、エネルギーとして利用した残りかすの尿素がたくさんできてしまうのです。雑食のイヌやヒトがエネルギー源として炭水化物をおもに利用し、タンパク質はおもに体を維持するために利用しているのと比べれば、その差は歴然です。
炭水化物はエネルギー源としてはクリーンで、残りかすは二酸化炭素と水だけなのですから、ほとんど腎臓に負担をかけないと言っても過言ではありません。したがって、「多飲多尿」が現れはじめたこの時期、必要なエネルギーを炭水化物と脂肪から供給することが大切です。もちろん体を作る材料のタンパク質は必要不可欠ですので、体にとって利用効率の高い良質なものを必要最低限与え、エネルギーとしてなるべく利用されないようにします。
また、塩分などもネフロンの負担になりますので、減塩が必要ですし、多尿=水溶性ビタミンの喪失という意味では、ビタミンの強化が必要でしょう。食事全体としてのカロリーは高めであることが好ましいと言えます。それは、カロリーの低い食事では、エネルギー源として体内のタンパク質が利用されてしまい、結果として尿素がたくさんできてしまうからです。
このように配慮された食事を与えることで、腎臓の負担が大きく軽減され、ネフロンの崩壊するスピードが遅くなり、腎不全の進行がゆるやかになります。 |
定期的な腎臓チェックを |
低タンパク質で腎臓の負担を軽減し、腎不全の進行がゆるやかになるとはいえ、やはり徐々に進行していきます。そして、「BUN」や「クレアチニン」が上昇をはじめます。けれども、もともと肉食で飲水量の少ないネコはその上昇に良く耐えます。正常値を少々上回った程度では、ほとんど食欲に影響はないのです。しかし、この時期を見落としてはいけません。
この時期には、低タンパク食だけでなく、尿毒症毒素を吸着して便と共に体外へ排泄する吸着剤が有効だからです。その開始時期を見逃さないためにも定期的な腎臓のチェックが不可欠となるのです。ただし、この吸着剤に関しては、神経質なネコでは食事に混ぜて与えると食事を摂ってくれなかったりすることもあり、投与方法には工夫が必要なことも多いでしょう。 |
「何か様子が変だわ・・」と思ったときはすでに重症 |
さらにネフロンの崩壊が進むと、低タンパク食や吸着剤では軽減しきれないくらいに体の中に老廃物がたまり、すっかり元気も無くなり、「食欲が落ちる」「嘔吐」「体重減少」「貧血」「毛艶が悪い」などの症状が現れます。いわゆる尿毒症という状態なのです。ここまでくると、重症の状態です。
体重減少が現れた時期からは、十分なエネルギーを食事によって摂取できなくなってきています。食事を十分に取れないために体内のタンパク質をエネルギー源として利用し、体重が落ちてきているともいえます。
この時期に至るともはや低タンパク食はその意味を失います。科学的によく研究されたネコの腎不全用低タンパク食のタンパク質含量は30%ですが、これは犬の発育期用フードのタンパク質含量に匹敵します。つまり、犬の高タンパク食レベルのタンパク質が、腎不全のネコには必要だということを示しているのです。したがって、体のタンパク質を維持するために、あえてタンパク質の制限をすべきでない場合も多いのです。この時期には輸液療法主体の治療となります。
この慢性腎不全の発症は、6歳を境に急激に増加します。「多飲多尿」のサインに気づかず「今まで健康だとばかり思っていたわ・・」とおっしゃる飼い主さんが多いことも事実なのです。
6歳を過ぎれば定期的に健康診断を受け、血液や尿の状態を知ることはとても意味のあることなのです。
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最後に |
ネコの「慢性腎不全」は、数年という年月をかけて徐々に腎臓の組織が破壊されていく進行性の病気です。ネコはその状態にうまく適応してよく耐えてくれます。だからこそ、早い時期に発見し、ネフロンをなるべく温存していくようなホームケアが、大切なネコと共に暮らせる時期を大きく左右するともいえるのです。
定期健診を、決して忘れないようにしてください。
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